8ゲートの部隊の兵隊さんたちが「突入だぁ」と指揮者を突き上げていた頃、管制塔の「はつりだワッショイ」は、もう決着していました。。
もちろん、管制室(飛行場管制業務)と、14階マイクロ通信室(洋上管制通信業務)を破壊し尽くしたのですから、実際的なダメージは巨大なものでした。
ドカン、ドカン、とハンマーをふるっている最中に、管制室には電話がかかってきたのです。
受話器を取った水野の耳には「そこには大事な機械があるのです。壊すのをやめてください」と、いう涙でつまる声が残っています。
「ごめんね」とは思うけれど、こっちも大事なお仕事さ。
現地の農民に宿ってきた激しい抵抗の心、いま、電話の主が流すらしい涙よりずっと人間的な涙、苦しい胸の内を知る努力をして、少しでも大事にしてきたら、こんなことにはならなかっただろうに。
もう、遅いのよ。
水野は「ただいま、占拠中!」と怒鳴って、受話器をたたきつけます。
もし、より重要な機器がある場所を特定されていたのなら、そこへまた、無理をしてでも向かったかもしれません。
実際は、占拠部隊はそれを知りませんでした。計画を立てたものたちも、そこまでは、調べ尽くしていなかったようです。
けれど、より開港阻止が廃港へと直結する、空港の息の根を止める可能性があったかもしれない重要な機器は、管制塔の下の管理棟の最上階(だったと思う)にあったようで、そこへのアタックは試みられませんでした。
管制塔に突入した戦力で、その作戦遂行ができたかどうかは、難しいところです。
前田なんぞは調子いいですから、「ホースで水をぶっかけ回せばよかったんだ」なんてことを、あとで言っておりましたが。
しかし、それでも思うのは、仮にその場所を知り、そこへ戦力を集中してうまくいったとしても、あの一番高い管制室を占拠するより、空港反対闘争をアピールする闘いにはならなかったのではないかということです。
やはり、あの高いところで、サングラスの中川が月光仮面のように突っ立って、Vサインしているところが絵になり、ガラスの向こうで大ハンマーが機器に打ち下ろされるシルエットが浮かび、そこから喚起されてくるイメージこそが、私は大切だったと思うのであります。
管制塔上のこの光景は、むろん、8ゲート部隊の「やる気」に火をつけずにおくものか。
大森●「行く」と決めるまで、5分ぐらいかかって、すでに3分の2くらいは引きはじめていたときだった。先鋒隊は「今日はパクられる」という覚悟をしていたから、「引くのかよー」と野次を飛ばしたわけ。ここまではわれわれの行動指導部がついていたから、「野次るな」と止められた。
大館●インターの内部からは、吉鶴君など管制塔に入れなかった人たち、それから小隊長、中隊長を含めて、「大館よ、ここまで来て、なんで帰るんだ!」と言いつづける。私は私で、「これまで訓練を続けてきた2年間が、このままでは吹っ飛んでしまう」と感じて、本部に「行かせてくれ。このままでは現場がもたない」と連絡した。結論が出るまで5分間ぐらいかかったと思いますよ。その間ずうっと、希一さんがアジっていた。
大門●そのとき、私はもちろん「行くな」という指示を出していたのだけれど、「誰が行きたいと言っているのか」と大館君に聞いたら、「吉鶴たちだ」と言う。「車で突入する」という連中もいた。「最後は、収まらないから行かせるしかないか」と悩んでいたら、本部の誰かが「行くと全滅するぞ」と言ったが、「どこかで引かせるから」とゴーサインを出した。
大館●突っこんでいいという指令が出たときは、本当にうれしかった。自分たちは部隊を預かっているので、突っこまなかったら、どうなるのだろうと感じていたから……。
佐々木●「これで、プレッシャーから解放された」という感覚は非常に強かった。ただし、それまで撤収のアジテーションしていた僕は大変だったけど(笑)。「管制塔に突入した同志を迎えに行くぞー!」って、突然、アジの調子を変えたわけだから。
吉鶴●「本部から突入の指令が出た!」と誰かが言ったのを覚えてる。
佐々木●トラック周辺に詰め寄っている連中が、大声で「オー!」って、叫んだからね。
高橋●でも、決断までの5分間というのは、けっこう長く感じたなぁ。もう赤旗が揚がっているので、本部に「どうするか」と聞こうとしたが、無線機の周波数がなかなか合わない。「管制塔が見えた。もう目的は達成した」とアジテーションをしているのに、中隊長の中には、そのような意志統一をしていない人もいて、「同志諸君、管制塔にはすでに突入した同志がいる。われわれが行かなくて、どうするのか」とアジっている(笑)。そうこうしているうちに、行くことになった。
本人たちはコマンドのつもりだが、部隊の性格は大衆部隊で、とにかく機動隊とぶつかるという気持ちが強い。だから、隊長までは全体の陣形を心得ているが、それ以外の部分は前夜も当日の朝も、「武器がなくなるまで撤退しない。われわれが撤退するのは武器を全部使い切ったときだ」と、口々に決意表明しているわけです。電気銃だとか、新兵器もいろいろ準備していたので、「まだ何も使っていないじゃないか」ということになる。
佐々木●部隊が撤収する際に捨てた火炎瓶のケースを、「忘れ物だ、もったいない」と思った女性2人が、再び担いで前線に運ぼうとしたという話もある。彼女たちは、そのケースを担いだまま、機動隊に逮捕された。それくらい「武器がなくなるまで撤退しない」という思いは強かったね。
(『1978・3・26 NARITA』より)変な話だけど、8ゲートの連中の様子を聞くと、笑いながらも涙がにじんでくるような気分になるのであります。
remol